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西澤会長の 「ちょっと寄り道」 その3
今回は、山岳事故におけるヒューマンエラーについて。
これまでのミニ講習会や事故報告書で度々紹介してきた『山岳遭難の構図』(青山千彰著)によれば、山岳事故におけるヒューマンエラーについて、最も多かったのが「体のバランスを崩した」で、以下「大丈夫だと思った」、「気づかなかった」、「深く考えなかった」、「疲れていた」の順と分析している。
そのうち「大丈夫だと思った」について。各自自分の経験を振り返った時、「あるある」、「そう言えば」ということがあるのではないだろうか。
この「大丈夫だと思った」の原因は何か。
一つには、「難しいコースではないから」「前にも何回か来ているから」「自分の実力、体力なら大丈夫」等の過信。二つ目は、慣れによる慢心。いずれも登山という最も事故のリスクの高い部類のスポーツに関わっていながら、具体的かつ客観的な根拠もなく「大丈夫」と判断する安易な気持ちが原因である。
次は、「身の丈」について。
昨年9月のミニ講習会でお知らせしたとおり、運動生理学的に見てもその能力は加齢とともに低下している。例えば平衡性に関しては、20歳を100%とすれば、40歳で65%、60歳は30%、70歳は20%である。同様に、敏捷性、持久力、柔軟性も低下している。このギャップを埋めるために日夜努力をしている方以外は、自らの体力や限界を自覚した上で山、コース、日程等を選定する必要がある。「身の丈」を自覚することこそが安全登山の基本である。重ねて言うが、登山は他の種目よりも事故のリスクの高いスポーツである。
かく言う筆者もかつて奥多摩で安易にショートカットしようとして、山林業務者の道に迷い込み、プチ遭難の経験あり。我こそ「身の丈」知らずである。
今回の蛇足は、夏目漱石。
有名な話だが、実は漱石、田圃の稲が米になることを知らなかった。色々と言い訳を言っているが、本当に知らなかった。子規がその著書『墨汁一滴』で紹介している。
さてこの「漱石」は、親友の子規が使っていた号を譲り受けたものである。
因みに「漱石」の語源は紙面の都合で省略する。